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2006年09月30日

放熱の破片  vol.3

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昨日(28日)に東日本新人王準決勝に足を運びました。

 僕が所属していたジムの先輩で、元東洋太平洋バンタム級チャンピオンの新田渉世さんが主宰する新田ボクシングジムからライトフライ級の黒田雅之くんが駒を進めていたからです。

新田ジムでは、プロライセンスを所得した選手の写真を8×10の大きさに引き延ばしてジムに飾っています。
その撮影を担当させて頂いています。
その撮影の時に黒田くんとは面識があるのですが、物静かな青年という印象でした。

別件の仕事の打ち合わせが少々長引き、黒田くんの試合の3ラウンド目に到着しました。
新人王戦は、準決勝までが4回戦(判定までいっても4ラウンド)、決勝が6回戦(判定までいっても6ラウンド)で争われます。

黒田くんは、ここまで5戦4勝4KO1敗という軽量級にしては破格のKO率を誇るボクサーですが、この日は判定までもつれ、そして手を挙げられました。

次の決勝戦に勝てば、西日本新人王と全日本新人王をかけて戦います。
全日本新人王に輝けば、日本ランキング10位にランキングされるのです。
新人ボクサーにすれば、チャンピオンへの近道なんですね。


 試合数が多いため、ゴミゴミと賑わう控室は新人王戦ならではの雰囲気です。
その空気は、普段の興行にはないもので、十数年前に僕が新人王戦に出場していた頃を思い出しました。

デビュー戦を1ラウンドKOで飾り、自分の能力を過信し、すっかりボクシングをなめてしまった僕は、2戦目でKOを狙い過ぎ判定で敗れました。

3戦目が新人王戦の1回戦でした。
本来フェザー級(57.1kg)だったのですが、2戦目で敗れた事で自分をもっと追いつめなければいけないと思い、ボクシング界にはびこる減量神話を信じてジュニアフェザー級(55.3kg)でエントリーしたのです。

4勝3KO1敗の戦績で準決勝まで進出しました。

トーナメント表の隣の山には、後に日本フェザー級チャンピオンになる木村鋭景くんが進んでいました。木村くんはデビュー当時から「辰吉2世」と注目を集めていた選手でしたから、彼に勝って新人王になりたいと強く意識していました。

しかし、勝ち進むに従って、勝てばまたこの減量があるのかと思うと、精神的にとてもきつく感じていました。
毎月のように試合があり、息を抜く間がないのですね。
プロボクサーとしては甘かったのですが、試合が近づくにつれ試合内容よりも減量の事ばかりが頭を占めてしまっていました。

そして、準決勝で敗退しました。
もし、決勝に進めていたとして、黒田くんが見せた溢れ出る笑みが僕に出たのだろうか・・・。
 
 
 
 
すこし苦い思い出です・・・。
 
 
 
 
新人達で賑わう控室の熱気は、たまらないものです。
 

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2006年09月29日

diary9月29日

渋谷文化プロジェクトと言うサイトで、小生のインタビュー記事を掲載して頂きました。

普段は写真を撮る立場なのですが、逆に撮られながらお話をさせて頂く事は不思議な体験でした。
 

もっと言葉で伝える事がうまくなりたいです。。。


http://www.shibuyabunka.com/

2006年09月28日

Heart Beat Photograph Vol.26

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2006年09月20日

放熱の破片  vol.2

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 機材の手入れをしていたら、レンズフードに血痕が残っている事に気がつきました。
その赤黒い点を見ると、昨夜おこった一瞬の刹那が蘇ってきます。

 日本ウェルター級タイトルマッチ、16勝(15KO)4敗1分の強打のチャンピオン大曲輝斉に、12勝(4KO)2敗1分の新井恵一が挑んだ試合は、文字通りの激闘でした。
新井さんの所属する高崎ジムとは、篠崎哲也さんを撮るようになってからご縁を持たせて頂いています。
篠崎さんは、日本タイトルに3度挑むも、わずかの差でタイトルを獲得出来なかったボクサーです。
新井さんが勝てば、篠崎さんが成し遂げれなかった、高崎ジム初の日本チャンピオン誕生になります。

これまでの実績から考えても、チャンピオン優位である事に疑いは持ちませんでした。
序盤でのKOもあるのでは、と思っていました。

しかし、新井さんは、そんな予想を覆すボクシングを展開するのです。
チャンピオンのパンチを警戒しながらも、ガードを堅め、左からのコンビネーションを上下に打ち分け、こつこつとダメージをあたえていきます。

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大曲さんの一発の威力は恐ろしいものだと知っていましたが、試合の流れは完全に新井さんが掌握していました。
8Rに入ると、チャンピオンは鼻と口から大量に出血し、連打でロープに詰められた時には、あわやストップ負けするのではないかと言うほどダメージは色濃く写り、新井さんの一方的な展開になります。

が、しかし、ラウンド終了間際に、チャンピオンの危険なパンチを食らい、大きなダメージを負ってしまいます。

そして・・・、       9R開始早々にチャンピオンの剛打を浴び、キャンパスに沈みました。
 
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あと6分。 あと6分間戦い続けることが出来たなら・・・。
 
 
あまりに壮絶な幕切れに、言葉をなくしました。

ボクシングは何がおこるかわからない・・・。
 
 

リングサイドで声援を送っていた篠崎さんがコーナーに連れ戻された新井さんに駆け寄り、「もう少しだったのにな。くっそー」と呟きながらグローブを外していました。
その姿は、自分がなし得なかった願いを、後輩に託していていた事がヒシヒシと伝わるものでした。
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控室で頭を氷嚢で冷やされながら、記者の方達からの質問に答える新井さんは、状況を受け入れることがやっとの様子で、呆然としていました。
記者の方達が控室を出て、一息つくと新井さんに1本のスポーツドリンクが差し出されました。

それは、北川純くんからのものでした。

昨年、北川くんと新井さんは3度に渡り熱戦を繰り広げ、新井さんが2勝1分とし、この度のタイトルマッチに漕ぎ着けたのですが、北川くんは、先月開催された賞金トーナメント ビータイトの一回戦で敗退し、現役を引退すると聞かされたばかりでした。
 

北川くんにすれば、かつて殴り合い、自分を踏み台にしていった男に思いを託していたのかもしれません。
 
 
 

それが北川くんから差し出された物だと気がつくと、2人は言葉を発する事なく固く握手を交わしました。
 
 


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勝者の陰には、想いを成し遂げる事なくリングを去る男たちの願いが常にあるのだと、改めて思い知った夜になりました。

2006年09月15日

Heart Beat Photograph Vol.25

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2006年09月14日

放熱の破片  vol.1

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 ボクシングの試合を撮りながら、涙が溢れそうになりました。
 
 今夜、内山高志選手の試合があり後楽園ホールに行きました。
内山さんは、Talk is cheapというwebサイト内の「戦士と語る」と、先日発売された「あしたのボクシング」で以前取材させて頂いた事があります。
アマチュアボクシングで全日本選手権に3度、国体で1度優勝経験を持ち、日本のトップ選手として活躍したボクサーです。
プロ入り後、3戦3勝3KO勝ちの好成績を残しながら、そのパンチ力のあまり、拳を骨折し、約1年ぶりの再起戦でした。

 対戦相手は、昨年度B級トーナメント ライト級の覇者 遠藤智也選手。
初回から、高くガードを固めて前進し、懐に入ってフックを狙う遠藤選手でしたが、冷静な内山さんは入り際にアッパーをあわせ、中間距離での右ストレートも面白いようにヒットさせます。
遠藤選手は気迫を全面に出し、愚直なまでに前に出るものの、ほとんどのパンチは内山さんのステップワークに空転させられ、一方的なペースで試合は進みましたが、遠藤選手が大きなパンチを繰り出す度に、観客席はどよめき、異常な熱気に包まれました。

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「水道管の中のオルフェウス」に主演してくれた鳥海純さんにとって、内山さんは拓殖大学ボクシング部の後輩であり、ワタナベジムの後輩でもあります。
写真を撮る僕のすぐ後ろの席に鳥海さんは座り、ラウンドの間のインターバルには席を立ち、リングサイドからアドバイスを送ります。
その姿を見ていて、ふと思い出してしまったことがありました。
 
 
 
 
 6月、大阪で日本バンタム級王座決定戦に敗れた鳥海さんと、数日後にお会いしてお話しし、引退する事を打ち明けられた時の事です。
 
 
「試合後にシャワー室で一人になった時に、涙が出て来ちゃって、ワンワン泣けちゃってさ・・・。
その時、もうダメだなって思っちゃったんだよね。」
 
 
シャワー室に行く直前、ポートレートを撮らせてもらったのですが、いつものようにサバサバとした様子を見せていました。
その時は、まだ興奮の中にあり、冷静に状況を呑み込めていなかったのかもしれません。

つい数ヶ月前まで自分が輝く場所であったリングで戦う後輩に、真剣な眼差しでアドバイスを送る姿を見て、あのシャワー室前の事を思い出してしまったのです。
 
 
 

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 白熱した試合の緊迫感と遠藤選手の気迫、その場の空気に情緒的になってしまったのかもしれません。

なんだか、うまくまとまりのない文章になってしまいましたが、カメラをバッグにしまうと、ドッと疲労感に襲われました。

試合結果は、内山さんの判定勝ちでした。
 
 
 
 
 
控室への階段を下りると、内山さんは自分の控室を素通りし、グローブをつけたままの姿で遠藤選手の控室に挨拶に向かいました。
 
 
 
 
 
 

再び、胸に熱いものがこみ上げてきました。
 
 
 
 

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2006年09月11日

diary9月11日

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ささやかなよろこびに むねがあつくなる日が あってもいい
 
 
 
 
 

Heart Beat Photograph Vol.24

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2006年09月08日

diary9月7日

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たった一言が 言えない時があります・・・。

2006年09月05日

Heart Beat Photograph Vol.23

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Profile

山口裕朗(やまぐちひろあき)
1999年プロボクサーとして17戦10勝(6KO)7敗の戦績を残し引退後、2002年 「サンデー毎日」で写真家としてデビュー。
2005年 ボクシング引退後、撮り続けている、かつての対戦 相手達の写真を、写真展『放熱の破片(かけら)』で発表。
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