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水道管の中のオルフェウス vol.2

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10月24日 鳥海 純 対 高野 旭(三迫)の8回戦。

試合前のワタナベジム控室は、必要以上ににピリピリした空気を感じさせない。
私は、17度後楽園のリングに上がったが、一度たりともリラックスする余裕が持てなかった。
鳥海さんは、程よい緊張感を発しながらも肩の力は抜いている。
場数を踏んだボクサーの持つ程よい緊張感。

控室のムードから、少しだけ話しをしても良いと感じた私は、次の作品で写真映画のようなものを創りたい旨を少しだけ話してみた。

興味を持ってくれたようだったが、試合前という事もあり、詳しくは話さなかった。
試合は、攻めの姿勢を崩さない鳥海さんが粘り強い高野を6RTKOにしとめた。

その後、日にちは失念してしまったのだが、後楽園ホールに来ていた鳥海さんと、控室の廊下で再会した時『水道管の中のオルフェウス』について話をした。
乗り気になってくれているのが、声の調子でわかった。
連絡先を交換し、後日連絡する事を約束した。

主役『男』が決まった。

男の次に重要な役は『女』。
いくら考えてみても、私の周りにタンゴを踊れる女性はいない。
シナリオを何度も読み返すうちに、それまでとは違ったイメージの『女』像が浮かんできた。

下北沢の隣駅、東北沢でダンス教室を主宰しているフラメンコダンサーで、森真奈美さん。
彼女に出演してもらえないだろうか。

真奈美さんとはキネマ倶楽部での呑み友達だった。
キネマ倶楽部でお会いした時に、次の作品の話をし、一度踊りを見学させてほしいと頼んでみた。

「イメージと違ったら他の人を探してくれていいからね。」

嫌みなく了解してくれ、後日見学させてもらえることになった。

哀切をつま弾くギターの旋律にのり、シューズがフロアーを踏みつける力強い振動、激しくそしてリズミカルに叩かれる手拍子、広くはないスタジオの中は生々しい息づかいに満ちていた。
初めて目の当たりにするフラメンコのエネルギーに圧倒された。

きっかけが『ラストタンゴ イン パリ』だったことで、タンゴにとらわれていたが、タンゴに固執する必要など全くなかった事に気づかされた。
タンゴの作品を創りたいわけではない。踊りは、この作品全体の中で、表現の一手段でしかなく、その根底に流れる感覚が通ずるものであれば、日本舞踊でもベリーダンスでもフラメンコでもよかったのである。

ギャラは支払えないが、素晴らしい作品を創りたいと、この作品の趣旨を話し、出演の依頼をした。
「初めての事で戸惑いはあるが・・・」との事であったが、快諾してくれた。

主要な出演者の2人が決まり、キネマ倶楽部で顔合わせをした。
鳥海さんも真奈美さんも、気さくな人柄で、すぐに打ちとけたようだ。
まだ撮影を始めた訳でもないのに、不思議な安堵感が私を包んだ。

<つづく>

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Profile

山口裕朗(やまぐちひろあき)
1999年プロボクサーとして17戦10勝(6KO)7敗の戦績を残し引退後、2002年 「サンデー毎日」で写真家としてデビュー。
2005年 ボクシング引退後、撮り続けている、かつての対戦 相手達の写真を、写真展『放熱の破片(かけら)』で発表。
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