diary6月4日
何年も前にOくんからプレゼントしてもらったこのライターを、今も大切にしています。
当時、窓ふきのアルバイトをしていました。
その日は東京郊外の現場での作業だったのですが、昼に会社から電話があり、Oくんのいる現場に行ってほしいと言われたんです。
受話器の向こうの事務の女の子は、いつも冷静な子で、この時もいつもの様子だったのですが、その声のトーンにいつもとは微妙に違う差異を感じ、胸騒ぎを覚えつつOくんの現場に向かいました。
そこに到着すると、屋上からロープが垂れ下がり、風に揺られていました。
カラーコーンのバリケードもそのままになっていて、初めて何がおこったのかを確認しました。
病院に行くと、社長さんがすでに来ていて、命には別状がないと聞かされました。
チューブがいっぱいついた体で寝息を立てる彼を見て、一気に緊張から解き放たれ、廊下の隅でこっそりと涙しました。
彼が退院してから、「色々とお世話になったから」と、プレゼントしてくれたのがこのライターなんです。
その後、お互いに窓ふきを辞めてからも僕の写真展に来てくれたりしているOくんは、今では元気に社会復帰しているようです。
最近、酔っぱらってこのライターを紛失してしまいました。
2件目にいった飲み屋さんに行くと、紛失から一週間もたっていたのですが、箱の奥からゴソゴソと取り出してくれ、ホッと胸を撫で下ろし、ふとOくんの事を思い出しました。