放熱の破片 vol.27
信念を貫き通した男は、5度目の正直でベルトを腰に巻きました。
2008年9月15日パシフィコ横浜で開催された『三大世界戦』の一つ、WBC世界スーパーバンタム級(55.3kg)暫定王座決定戦のリングには、全盛期を過ぎても尚、世界のトップクラスに位置し続けた2人の男が上がりました。
3位のナパーポン・ギャットティサックチョークチャイ(タイ)は、2003年にオスカー・ラリオス(メキシコ)の持つWBC世界スーパーバンタム級タイトルに挑み惨敗しましたが、再起後1つの引分けを挟んで22連勝中。
2位の西岡利晃(帝拳)選手は日本タイトルを獲得したのが10年前、この10年の間に4度ウィラポンさんの持つWBCバンタム級 (53.5kg)タイトルに挑戦し、2敗2分と、あと一歩の所で世界に手が届かなかったんです。
その間、3度目の世界戦が決まりながら、左足アキレス腱断裂の大怪我というアクシデントにも見舞われもしました。
西岡さんが世界タイトルを獲ることに疑いを持つ人は、ボクシングファンや関係者にほとんどいなかったことでしょう。
西岡さんがサウスポースタイルから放つ左ストレートは、鋭く、そして美しい。
その鋭いパンチを武器に、世界の王者として、どれほど活躍するのだろうと期待せずにはいられないボクサーなんです。
試合開始から積極的に仕掛ける西岡さん、そのスピードにナパーポン選手はついていけません。
パンチのスピードもなく、動きにキレのあるわけでもないナパーポン選手が何故世界のトップクラスに君臨し続けたのか、それは、中盤以降になるとわかってきました。
驚異的な打たれ強さ、底なしのスタミナ、重そうなパンチ、序盤からペースが一向に変わらないんです。
前半の貯金があるものの、ジワジワと追い上げるナパーポン選手の圧力に、西岡さんは心身にたまらぬ疲労を感じたはずです。
11ラウンドになると、疲れの見える西岡さんはダウンをとられても仕方の無いようなスリップダウンをします。
インターバルの時にナパーポン選手が大量に浴びる水でマットが滑るというのもあったと思いますが、疲労で足に踏ん張りが効かなくなってなっていたのでしょう。
試合途中のポイント発表で、前進をやめる事は敗北を受け入れた事になるナパーポン選手は、最後の最後まで手を出し続け、西岡さんは逃げずに迎え撃ち、12ラウンド36分間があっという間に過ぎてしまったこの激闘は、試合終了のゴングをききました。
採点を聞き、新チャンピオンのコールをうけると、嗚咽をもらし誰にはばかる事無く涙を流した西岡さん。
これまでボクシングに全てを捧げてきた西岡さんがこれまでで見せた、一番美しい姿でした。
池田高雄拳跡集 『二人の男』
http://www.tic-box.com/doc-ikeda2/ik-0809.html