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放熱の破片  vol.1

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 ボクシングの試合を撮りながら、涙が溢れそうになりました。
 
 今夜、内山高志選手の試合があり後楽園ホールに行きました。
内山さんは、Talk is cheapというwebサイト内の「戦士と語る」と、先日発売された「あしたのボクシング」で以前取材させて頂いた事があります。
アマチュアボクシングで全日本選手権に3度、国体で1度優勝経験を持ち、日本のトップ選手として活躍したボクサーです。
プロ入り後、3戦3勝3KO勝ちの好成績を残しながら、そのパンチ力のあまり、拳を骨折し、約1年ぶりの再起戦でした。

 対戦相手は、昨年度B級トーナメント ライト級の覇者 遠藤智也選手。
初回から、高くガードを固めて前進し、懐に入ってフックを狙う遠藤選手でしたが、冷静な内山さんは入り際にアッパーをあわせ、中間距離での右ストレートも面白いようにヒットさせます。
遠藤選手は気迫を全面に出し、愚直なまでに前に出るものの、ほとんどのパンチは内山さんのステップワークに空転させられ、一方的なペースで試合は進みましたが、遠藤選手が大きなパンチを繰り出す度に、観客席はどよめき、異常な熱気に包まれました。

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「水道管の中のオルフェウス」に主演してくれた鳥海純さんにとって、内山さんは拓殖大学ボクシング部の後輩であり、ワタナベジムの後輩でもあります。
写真を撮る僕のすぐ後ろの席に鳥海さんは座り、ラウンドの間のインターバルには席を立ち、リングサイドからアドバイスを送ります。
その姿を見ていて、ふと思い出してしまったことがありました。
 
 
 
 
 6月、大阪で日本バンタム級王座決定戦に敗れた鳥海さんと、数日後にお会いしてお話しし、引退する事を打ち明けられた時の事です。
 
 
「試合後にシャワー室で一人になった時に、涙が出て来ちゃって、ワンワン泣けちゃってさ・・・。
その時、もうダメだなって思っちゃったんだよね。」
 
 
シャワー室に行く直前、ポートレートを撮らせてもらったのですが、いつものようにサバサバとした様子を見せていました。
その時は、まだ興奮の中にあり、冷静に状況を呑み込めていなかったのかもしれません。

つい数ヶ月前まで自分が輝く場所であったリングで戦う後輩に、真剣な眼差しでアドバイスを送る姿を見て、あのシャワー室前の事を思い出してしまったのです。
 
 
 

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 白熱した試合の緊迫感と遠藤選手の気迫、その場の空気に情緒的になってしまったのかもしれません。

なんだか、うまくまとまりのない文章になってしまいましたが、カメラをバッグにしまうと、ドッと疲労感に襲われました。

試合結果は、内山さんの判定勝ちでした。
 
 
 
 
 
控室への階段を下りると、内山さんは自分の控室を素通りし、グローブをつけたままの姿で遠藤選手の控室に挨拶に向かいました。
 
 
 
 
 
 

再び、胸に熱いものがこみ上げてきました。
 
 
 
 

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Profile

山口裕朗(やまぐちひろあき)
1999年プロボクサーとして17戦10勝(6KO)7敗の戦績を残し引退後、2002年 「サンデー毎日」で写真家としてデビュー。
2005年 ボクシング引退後、撮り続けている、かつての対戦 相手達の写真を、写真展『放熱の破片(かけら)』で発表。
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