放熱の破片 vol.4
あと一秒・・・
あと一秒パンチが当たるのが遅かったら・・・
東洋太平洋(OPBF)・日本・ABCOのスーパーウェルター級(69.85kg)三冠王者であるクレイジー”タイガー”キムさんが、世界ランキングボクサー ハビエル・ママニ(アルゼンチン)を迎えた昨夜の後楽園ホールは満員でした。
ファンは好カードに正直に反応を示すものです。
フライ級(50.8kg)やバンタム級(53.52kg)といった軽量級で、億のファイトマネーが動く事は滅多にありませんが、ウェルター級(66.68kg)やミドル級(72.57kg)といった中・重量級では、億単位のファイトマネーが動く事がざらです。
世界6階級制覇のスーパースター オスカー・デラ・ホーヤが現在もWBCのチャンピオンとして君臨し、選手の層が厚いスーパーウェルター級にあって、東洋・アジアで無敵を誇るキムさんでも、タイトル挑戦のチャンスはなかなかめぐってきません。
勝ち続け、チャンスを待つしかないのですね。
昨夜の試合も、世界への望みをつなぐ一戦でした。
積極的に仕掛けるキムさんですが、ママニの固いディフェンスに顔面へのクリーンヒットをなかなか奪えません。
途中からボディー攻撃に切り替え、流れはキムさんがつかんでいるように感じました。
時折クリーンヒットするママニの正確性をとるか、キムさんの攻勢点・リング・ゼネラルシップをとるのか、ポイントをつけるのが難しい試合だったと思います。
そして、最終10ラウンド中盤に、ママニの左フックを食らい、深いダメージを負ったようにみえました。
しかし、ひるまずに攻勢を続け手を出すキムさん。
残り時間が10秒をきり、僕は
『逃げきった』
と思ったその瞬間でした。
残り2秒、 ママニの右がカウンターでヒットし、鍛え上げられた肉体はマットに吸い込まれていきました。
レフェリーがダウンを宣告したのが2分59秒。
キムさんは朦朧としながらロープにしがみつき、立ち上がろうとしました。
『立ってくれ!』
2000を超えた客席からの願いなど、リングの選手に届く訳はありません。
壮絶に、そして激しく再びマットに崩れ落ちました。
9ラウンドまでジャッジの採点では、立ち上がりファイティングポーズをとっていれば、判定で引き分けでした。
あと、1秒だったのです・・・
「これがボクシングだ」
などと、簡単な言葉で片付けたくありません。
僕の中で巡る思いは、
これがボクシングなのか・・・