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放熱の破片  vol.52

 痛い経験を通して新たなステップを踏めば、その経験は確実に生きた技術となって体に染み付くでしょう。 
 

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2011年1月31日WBA世界スーパーフェザー級(58.9kg)チャンピオン内山高志(ワタナベジム)が、同級4位の三浦隆司(横浜光)を迎えての防衛戦が有明コロシアムで開催され、8R終了TKOで内山が3度目の防衛に成功しました。
 
 

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 当初は、暫定王者のホルヘ・ソリスと統一戦を行う予定でしたが、直前でソリスが気管支肺炎を患ったという理由でキャンセルになり、同じ日に日本タイトルマッチに出場する予定だった三浦くんに出番が回ってきました。
 

年が明けてから、内山くんのトレーニングを何度か撮影させてもらいました。
その時に、何度もされている質問だったと思いますが、現在スーパーフェザー級で世界レベルの実力者であるソリスから、日本チャンピオンの三浦君に対戦相手が変更になった事で、気持ちの張り合いが変わってしまったんじゃないかと思って、対戦相手の変更がどう気持ちに影響したかを聞いてみました。


やはり、ソリス側がキャンセルを伝えてきた事を最初に聞いた時は落胆したようですが、その切り替えは出来ているようでした。
 
12月に痛めてしまった右の拳で、バッグやミットを思い切り打つ事が出来ない事だけが唯一の不安でしたが、トレーニングの内容も充実していて、更に大きい舞台で強いボクサーになりたいという意思を強く持っている内山高志に、油断は欠片もありませんでした。
 
三浦くんにすれば、突然ビッグチャンスが飛び込んできて、同日に試合が決まっていたということは、調整も内山くんと同じ条件で進めてきた訳です。
 
 
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 試合が始まると、内山くんの左リードがサウスポーの三浦くんを捕えます。
右構えの選手にとって、前にある手が近くにくるサウスポーは、その距離感がオーソドックスの選手と向かい合う時と違って左のリードを当てずらいんです。
そのかわり、奥にある右のストレートは死角を作りやすくて当たりやすいのですが、それは相手も左が当てやすいという事で、オーソドックスの相手とやる事に慣れているサウスポーの選手の方が一日の長があります。
 
 
内山くんの左ジャブからは、そんなサウスポーに対するやりにくさを微塵も見ることが出来ません。プロでは今回の試合が17戦目、それほど多いキャリアではありませんが、アマチュア時代に113戦のキャリアを持ち、オーソドックス サウスポー インファイター アウトボクサー、様々な相手と戦い勝ち上がってきた内山くんは、サウスポーの攻略法を持っています。
 
 
三浦くんは一発のKOパンチを持っている選手ですが、内山高志の左が完全に試合を支配し、このままいけば、三浦君はダメージを蓄積して内山くんのKO勝ちになるかなと思いました。

 
第3ラウンドに入り試合は大きく動きます。
偶然のバッティングで内山くんが右目の上をカットしたんです。
 
僕も17戦のキャリアの中で、4度カットしていますが、パンチをもらわなくとも偶然頭が当たってカットする事もあるので、ほとんどのボクサーが経験すると思います。しかし、驚いた事に内山高志にとってはプロアマ通じて初めてのカットだと言うのです。
目に血が流れこむと、滲んだように相手を見ずらくなりますし、滴ってくる血が煩わしいんです。
 
 
第2ラウンドに痛めた右拳の痛みがひどくなってきたところに、カットするという初めての経験も重なり、少なからず内山くんの集中力が途切れ、三浦くんの左ストレートが命中し内山くんがダウンします。
 
 
立ち上がったものの、明らかにダメージはある。冷静にクリンチでしのごうと意識していたのだと思いますが、時折危険なタイミングで打ち返す内山高志に、王者のプライドを感じました。
 
ラウンド終了のゴングが鳴り、第4ラウンドからは、先ほどのダウンがなかったかのように試合の流れは内山君のものに戻っていました。 
 
 
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痛めた右はフェイントで使って当てにいかず、離れては左のジャブ、接近しては左フックとアッパーで、コツコツと三浦君はダメージを蓄積し目の腫れで視界を失っていき、第8ラウンド終了後、コーナーでドクターが三浦君の目をチェックして試合のストップを告げました。
 
 
 
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目の上のカット、そしてダウン、慣れない事が立て続けにおこったものの、試合を組み立て直す事の出来る冷静さは見事でした。
しばらくは右手の回復に努める様ですが、次の防衛戦では、更に強くなった内山高志が見れるでしょう。
 
 
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内山高志 オフィシャルウェブサイト

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山口裕朗(やまぐちひろあき)
1999年プロボクサーとして17戦10勝(6KO)7敗の戦績を残し引退後、2002年 「サンデー毎日」で写真家としてデビュー。
2005年 ボクシング引退後、撮り続けている、かつての対戦 相手達の写真を、写真展『放熱の破片(かけら)』で発表。
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