放熱の破片 vol.34
「ボクシングは『ど真ん中』だった。」
そう語ったボクサーがリングを去りました。
12月1日、後楽園ホールのリングには、この試合を最後に引退する川崎タツキ(草加有沢)さんが上がりました。
来年4月でプロボクサーの定年である37歳になる川崎さんは、チャンピオンになれば現役を続行できますが、年頭のチャンピオンカーニバルを考えれば、トップコンテンダーではない川崎さんに、タイムリミットまでタイトルマッチの舞台が用意される事はおそらくなかったと思います。
元暴力団構成員、薬物中毒、背中の入れ墨を皮膚移植で消してプロボクサーになり、3度のタイトルマッチに惨敗。
愚直なまでに前進を続け豪打を振るう、見ている者の心を揺さぶるその無骨な戦いっぷりに魅了されてきました。
そして、その前歴を感じる事が出来ない穏やかな人柄が、接する人を引きつけるんです。
この夜、メインイベントのリングに登場すると、客席から歓声とテープが飛び交いました。
ラストファイトのゴングが鳴ると、川崎さんらしく戦い、引退試合に選ばれたタイ人選手から、2ラウンド・3ラウンドに計4度ダウンを奪いTKO勝利で最後を飾りました。
引退セレモニーのリングには、愛娘を抱き上げた川崎さんと奥さんが上がりテンカウントのゴングを聞きました。
3人の姿を見ていると、
「これでよかったんだ。」
そんな思いが、ふと浮かんできました。
控室で記者の方から、川崎さんにとってボクシングは言葉にするとどんな言葉になるか、という質問に、
「なんかうまく言えないけど、『ど真ん中』って言う言葉が浮かぶんですよね。えへへ・・・。」
愛嬌一杯の笑顔で答えました。
『ど真ん中』
川崎タツキさんというボクサーにぴったりの言葉です。
川崎さん、ありがとうございました。
そして、お疲れさまでした。