放熱の破片 vol.45
亀田興毅は、やはり強かった。
2009年11月29日さいたまスーパーアリーナで開催されたWBC世界フライ級タイトルマッチ。チャンピオン内藤大助と挑戦者 亀田興毅の一戦は、注目度の非常に高い試合とあって、会場は満員の観客の熱気に溢れていました。
内藤さんは気迫に満ちた様子を表に出して入場。
その内藤さんの姿からは、気負いともとれる空気を感じました。
チャンピオンは引き分けでも防衛できるのですから、相手の出方を見ながら,一つずつ持っている引き出しを開けて、相手を追いつめてゆけばよいのです。しかし、これほど注目されている試合ですから、見ている者達が何を求めているのかを内藤大助というボクサーは良くわかっています。
内藤さんはファンの求める激しい打ち合い、勇敢な戦いを、チャンピオンでありながら仕掛けていくだろうなと、その顔を見た時に確信しました。
対する亀田興毅くんは、余裕のある落ち着いたいい顔。
チャンピオンが変則的なフェイントからフックを振り抜けば、チャレンジャーはノーモーションからの左を小気味よく出し、中間距離で緊迫感のある攻防が繰り広げられました。
しかし、その戦いも序盤だけで、中盤からは亀田くんは待ちのボクシングに切り替えます。
カウンターを狙ってポイントを拾っていきます。
チャンピオンは、本来の距離の駆け引きをしながら強打を叩き込むボクシングに、ここから切り替える事は出来ませんでした。
終盤、チャンピオンのボディーブローがきまり、顔には出しませんでしたが、チャレンジャーは失速します。しかし、もち直し冷静に距離をキープし、ポイントを集めました。
結局大きな山場もなく、ジャッジ2人が77−75、1人が78−74で新王者誕生を支持しました。
実に見事なボクシングをし、判定に異論のある人は少ないんじゃないかと思います。
これまで、何者かわからぬ相手や、ロートルとの試合しか見せてくれなかった亀田興毅くんの力がどれほどのものか、強い事はわかっていても、どんな強さがあるのかわかりませんでしたが、初めてその強さ・うまさを見せてくれたのではないでしょうか。
ただ、辰吉さんと薬師寺さんとが見せてくれた激闘の時のような、熱い余韻は全くと言っていいほど残りませんでした。
個人的な好みになりますが、フロイド・メイウェザーのような、強いけど熱くなれないボクサーの試合を見た後、スポーツとしてだけのボクシングを見た時の物足りなさが残ります。
ボクシングに限らず、勝負事は勝つ事が一番重要だという事は良くわかっています。
ボクシングで一番大切な事は、打たせない事だとも思っています。
そこに、誇りをかけた勇敢な戦いをするボクサーが、僕は好きです。